第18回 大阪支部会総会 講演会(午前の部)

  • 日時

    2025年4月29日(火・祝)

  • 講師

    鳥居 深雪 先生(神戸大学 名誉教授)

  • 会場

    オンラインによるLIVE配信

  • 報告

     大阪支部会の総会に伴う記念講演会にて、神戸大学名誉教授の鳥居深雪先生に、「ニューロダイバーシティとしてのASD」 を演題にご講演いただきました。
     
     現在の教育現場で、不登校の激増、通級指導教室の右肩上がりの増加が顕著である。日本には、集団参加に重点が置かれ、みんなと一緒が普通という考えが大きく、思春期に「ずっと我慢していた」との声が聞かれる。本人の尊厳を大切にすることが求められる。
     発達「障害」の診断において、行動上の問題として表面化するASDは、低年齢で気づかれることが多い。DSM-5の自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の診断基準で、「1.社会的コミュニケーションと対人的相互反応の障害 2.行動、興味、および活動の限定されたパターン的な繰り返し」とあり、重要なのは2.のこだわりに当たる部分である。こだわりによる「切り替えの弱さ」は、「やる気が足りない」「作業が遅い」など、勘違いにつながりやすい。
     ASDの心理学的仮説として、実行機能障害、弱い中枢性統合、「心の理論」障害が挙げられる。また、生物学的仮説においては、扁桃体障害仮説がある。スケジュールを示すことの有効性、語用論・基本的情緒の難しさへの理解が求められる。
     発達段階を考えるとき、幼児期はASDにとって最も大切である。ASDは、ソーシャルモチベーションが極端に低下していると言われる。共同注意による人との関わり、関係性の発達の時期である幼児期に十分に関係を築くことが社会性の発達につながるのである。
     ASDの知的水準は知的水準からギフテッドのレベルまで多様である。Neurodiversity(ニューロダイバーシティ)における、人間の神経発達に存在する自然な多様性という視点は、多様な学び・指導のスタイルにつながる。IQと特性は別の軸であり、置かれている環境によって適応状態は異なるため、本人の自己理解と進路選択へと導き、向いている仕事に就くことが目あてと言える。「障害」は絶対的なものではなく、環境によっては長所にも困難にもなり得る。多様な発達を支援するための特別支援である。
     Early Start Denver Model:ESDMでは、包括的早期行動介入アプローチ(生後12か月~48か月)が重要と言われ、ソーシャルモチベーション障害仮説に基づいている。PRT(モチベーションを強調するテクニック)やABAの指導技法、ヴィゴツキーの最近接領域(P領域)、集中的な1:1の介入+保護者コーチングといった点を重視するものである。先の幼児期の関係性発達を促すための取り組みと言える。
     この他、ASDのある子どもへの支援では、肯定的で具体的な指示が重要である。字義通り捉える、冗談が分からない子どもたちにはホワイトライ(良い噓)も理解できないことを、指導者が知り、学び、配慮する必要がある。
     思春期はストレスフルであり、和らげるために薬物療法を取り入れる。ASDの場合、少量処方が推奨される。リスペリドンは易刺激性、SSRIはフラッシュバック、アスピプラゾールは易刺激性への効能、メラトニンは睡眠障害に処方される。
     人とつながるために、高校段階ではアカデミックスキル・ソーシャルスキル・アドボカシ―スキルを身につけることで自己決定につなげる。兵庫県通級で大切にしてきたことである。本人が獲得することを重視し、「自分の困難を説明する相手を選んでみよう」「個人情報の基本的な開示段階」などを指導する。このように「助けを求める力」を育てることは、セルフアドボカシー(自分を守る力)につながる。合理的配慮についても、ナチュラルサポートで良い場合もあり、当事者の意見が大切であり、自己決定権を尊重したいものである。
     加えて、社会におけるパブリックスティグマが、セルフスティグマを引き起こすことがある。パブリックスティグマの改善は社会の責任であり、セルフスティグマを乗り越えるのは本人の意思である。すべての子どもの権利を尊重し多様な学びを保障することで、セルフアドボカシーを大切にして援助を求める力を育てたい。最終目標は、その人らしい成長・人生である。

    文責:運営委員 井阪